「星の王子さま」のバラは誰のこと? サン=テグジュペリ 伝説の愛

「星の王子さま」に出てくる王子のふるさとの星のバラ、とても印象的です。 おしゃれで無邪気、四つのトゲがあり、しきりに咳をするバラ。 王子を困らせるバラ。 バラはこの話のヒロインです。 王子は最後、バラの待つふるさとの星になんとしてでも帰ろうとするのですから。 バラとは一体なんなの? モデルがいたのでしょうか?

画像私が「星の王子さま: Le Petit Prince」にはじめて出合ったのは高校2年のとき。 英語のクラスでは、副読本として英語版の「星の王子さま:The Little Prince」を使っていました。 原作はフランス語なのに、なぜ英語翻訳版が副読本になったかはよくわかりませんが・・・ しかし現在でも、多くの高校において、なんらの形で教材として使われていると聞きます。

画像 原作者は、フランス人の飛行士であり作家の 
 アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ
 (Antoine de Saint-Exupéry)
 第二次世界大戦さなかの1943年に出版

 1944年7月、偵察のため出撃 消息を絶つ 乗機は2003年、地中海より回収


王子のふるさとの星、B612には、よその星から飛んできた種から咲いた一輪のバラがありました。王子はバラの花を美しいと思い、大切に世話していました。 しかしプライドが高く、わがままなバラの言葉に傷ついた王子は、バラに別れを告げ、他の星の世界を見に行くために旅に出ます。
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さまざまな星を旅して、地球にやってきた王子は、砂漠でパイロットの「ぼく」やキツネやヘビに出会います。 また数え切れないほど咲いている地球のバラにも出会います。

でも王子が愛するバラは、星に残してきたあのたった一本のバラの花だけ。 王子は気づきます ― いくらほかにたくさんのバラがあろうとも、自分が美しいと思い、一生懸命世話をしたバラはやはり愛おしく、自分にとって一番のバラなのだと。

そう、ふるさとのあの星に帰らなければ…

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高校生の私にとって、英語版の「星の王子さま」はそれはハードでした。英語の先生は「日本語訳を読んではいけません!英語だけで理解するのです」と釘をさされましたが・・・・は~ん?! そんなこと言われてもねェ・・・訳書に手がのびるのは、時間の問題でした。 英文が何を言っているのか、よくわからなかったのです。

ところが先生は、そうしたおバカな生徒たちがいるのはお見通し。期末の課題レポートが出され、作中のキャラとそれに関する言葉について考察しなさい、というわけです。 あ~あ、ヤになっちゃう。 私は、王子のふるさとの星に咲いている「バラ」を選びました。 キツネにしておけばよかったのに・・・・

君が君のバラのために失った時間こそが、君のバラをかけがえのないものにしているんだよ」 とキツネに言われる王子。

ハイ、お手上げでした。 「バラ」の意味合いについてチンプンカンプンなのに、英作文をトンチンカンにするわけですから、もうムチャクチャ。 レポートは真っ赤になって返ってきました。

画像そして「バラ」の意味がわからないまま年月が流れ、ある日、図書館で二冊の本を見つけました。

「サン=テグジュペリ 伝説の愛」 アラン・ヴィルコンドレ著 岩波書店 06年

ああ、そうだったの! 目からウロコ。 あのバラは妻のコンスエロだったのです。 それなら霧が晴れたように、分かります、これまで不可解だった王子とバラとの関係、またバラや王子の語る言葉の意味が。

本には、「星の王子さま」のバラ、コンスエロの謎めいた表情を浮かべる幾枚もの写真と共に、二人のあいだで交わされた何通もの熱い手紙や電報が掲載されていました。


画像 そして2006年「~伝説の愛」の本のもとになったのが、
 コンスエロの手記「バラの回想」。 両方読んでみました。 
 
 そこにはサン=テグジュペリ亡き後、文学者や研究者を悩ませてきた
 「バラとはいったい何なのか/誰なのか?」が解き明かされ、
 彼のかけがえのない「バラ」が微笑んでいたのです。                 

  バラの回想 コンスエロ・ド・サン=テグジュペリ著 文芸春秋

 近年までサン=テグジュペリの妻の存在は、あまり注目されませんでした。伝記作家や研究者たちも、ごくわずかな行を割くだけ。
 



その背景には、コンスエロが伯爵家、サン=テグジュペリ家に受け入れられず、一族(母親をのぞく)から無視されつづけたこと、さらに、彼の愛人、ネリーがコンスエロの役割を否定し、それが伝記に大きな影響をおよぼしたことも関係しているようです。 サン=テグジュペリの奥さんって、こんなにも美しい人だったんですね!

サン=テグジュペリ生誕100周年にあたる2000年、妻コンスエロが夫と最後に過ごした亡命先のニューヨークから持ち帰った大型トランクが初めて開けられ、二人が交わした山のような手紙、写真、コンスエロの原稿などが発見されたのです。 フランスは騒然となったとか。 

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コンスエロは、火山の国、中米エルサルバドル生まれ。 生涯で三回結婚しています。 三度目がサン=テグジュペリ。 彼女は美しく、しかもコケティッシュ。 自由奔放でわがまま、怒りっぽく、喘息持ちだったそうです。 

王子の星には火山があります。 またバラは咳をします。 王子のふるさとの星とは、つまり、コンスエロの待っているところだったんですね。
 
「バラの回想」では、フランスに殉じた空の英雄として神格化されていたサン=テグジュペリを、コンスエロ側から見ています。妻の目に映る夫は、救いようのない浮気者で、自己チュウーなのです。

約14年間の結婚生活で二人はケンカを繰り返し、別々のアパートに住んだり・・・離婚の話し合いをしたり・・・「仲たがいと和解の連続」 それでも、「一緒にも、別れても、生きられなかった」二人が、最後まで激しく互いを求め合い、愛し合ってしたことは確実です。 1998年、地中海から発見された遺品のブレスレットには、彼とコンスエロの名前が刻まれていました。 こうした夫婦もいるのですね。 

「星の王子さま」には数多くの意味深い言葉が出てきます。 たとえ、私の高校時代にすでにバラの正体が明らかになっていたとしても、高校生の私には、バラと王子のことを理解するのは無理だったでしょう。 夫婦のビミョウな機微、そして愛情がバックにある言葉ばかりですから。 でも、今ならわかるような気がします。 

☆ あのころ、ぼくはなにも分からなかったんだよ。 花がぼくになにを言ったか、ではなくて、花がぼくになにをしてくれたか。それを考えて、花が大切かどうか、決めなければいけなかったんだ。 花はぼくをかぐわしい匂いで包んでくれた。ぼくを明るく照らしてくれた。 ぼくは逃げ出してはいけなかったんだ・・・・・・

 ぼくは経験が足りなかったんだよ。 だから、どうやって花を愛してあげたらいいか、分からなかったんだ

画像 どこかの星に咲く花を君が愛したら、夜、空を見あげるのは、楽しいよ

 大事なものというのはねえ、目には見えないんだよ・・

         コンスエロ制作の「星の王子さまとバラ」 →


二人が交わした手紙/電報はとても感動的です。 サン=テグジュペリがコンスエロに宛てた最後の手紙にはつぎのように書かれていました:

「きみしかいない、なぜなら、きみはぼくの人生の糧(パン)、ぼくの土地の塩、そしてぼくを養ってくれるから」

もし無事に戦争より生還した暁には、「星の王子さま」の続編を書こうと約束しています。 タイトルは「星の王女さま」。

「きみはもうトゲのあるバラではないだろう、いつも『星の王子さま』を待っている夢の王女さまになるだろう・・」と。

 
なお「星の王子さま」からの引用は平凡社版 稲垣直樹氏の訳からです。


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よかったら、聞いてくださいね 名曲、ベット・ミドラー(Bette Midler)の The Rose です  歌詞が出ます。



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参考

アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ Wikipedia■へ

バラの正体判明のル・モンド紙の記事の日本語訳■へ

星の王子さま 公式サイト■へ 

バラ関連の記事へ
奇跡の青いバラ誕生 クレオパトラのバラ好きはローマ経済に影響した?


サン=テグジュペリ伝説の愛
岩波書店
アラン・ヴィルコンドレ


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バラの回想―夫サン=テグジュペリとの14年
文藝春秋
コンスエロ ド・サン=テグジュペリ

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